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2012.01.29 (Sun)

ダークナイト(3)

新シリーズだけ見て旧シリーズを見ないのはやっぱり片手落ち(放送禁止用語)なので,
ティム・バートン監督の初代バットマンを借りて見てみた。

ワオ。
登場人物の描かれ方がまるで反対だ。
ぴったり正反対であるところに,クリストファー・ノーラン監督の
旧シリーズに対する愛が感じられるのはわしだけ?
「こちらの側面は旧シリーズでたっぷり御覧になったでしょうから,
 今回は反対側を撮りますね」っていう。



旧シリーズだと,バットマンは観客からみても正体不明の存在だ。
新シリーズがその誕生と活躍,苦悩を丁寧に描いているのに対して,
旧シリーズでは「裕福で著名な医師である両親が,若き日のジョーカーによって殺される」
という誕生の契機は語られるものの,ブルース・ウェインがどうやって生計を立てているのか,
銃弾をも通さない鎧やバットモービルをはじめとする数々のオブジェはどう作られたのか,
その強さはどこで得たのか,そういったバックグラウンドは語られない。
さらに(物理的に)闇から出てこない。
文字通りのダークヒーローっていう感じ。

どことなく退廃的な香りの漂うゴッサム・シティのありさまや,
広々とした屋敷の中で主人公とヒロインがぽつんと2人きりの食事のシーンからして,
あのままゴシックホラーの世界に入り込んで題名がいつの間にか
吸血鬼ドラキュラなんて風に変わっていたとしても全然違和感なさそう。

そして,悪党はきっちり殺す。
マフィアは木っ端微塵に爆破し(どっちがテロリストなんだ),
ジョーカーには両親の復讐だと言い切り,
さらには彼を「自身の罪の重さが分かるように」始末する。

古き良き(?)アメリカの姿がそこにあった。



かたやジョーカーも対照的だ。
マフィアの内紛に端を発する旧シリーズは,逆にジョーカーに関する描写が豊富。
その誕生の経緯,活躍(?),趣味嗜好に至るまで…。
役を演じるジャック・ニコルソンが一番の大物だったからそうなった…かどうかは知らんけど。

旧シリーズのジョーカーはひとことで言うと貴族,という印象を受けた。
まず,美を愛する。
自分の感性に合わなければ,
どんなに他人が評価している作品でもめちゃくちゃに破壊するけど,
逆に自分の感覚に合えば正当に評価するし,さらに自身の美を表現しようとする。
ヒロインはそのせいでジョーカーに目を付けられちゃったわけだけど…。

自身の道楽のために金も惜しまない。
金持ちだからこそ出来る芸当だろうけど,2,000万ドルをポンっとばらまく。
よっ,お大尽!

「善」「美」「金」という社会の価値観そのものを破壊しようとする
=それらに依存しきっている新シリーズのジョーカーとは逆に,
自身の価値観で生きてる趣味人なんだよなー旧シリーズのジョーカーは。
人から注目されないとスネてしまう子どもっぽいところは一緒だけど。



自分がやってることに自信があるんだ。
その対比が一番鮮明に現れていたのは,
ジョーカーのところにバットマンが突っ込んでくるシーンだと思う。
新旧どちらのジョーカーもバットマンに対して「来いよ!」と吠える。
けど,その心情はまったく正反対。

旧シリーズのジョーカーは,自分がやられるとは微塵も思っていない。
「オマエのへなちょこ弾になんか当たるかよ!」だろう。
果たして実際に弾は当たらず,それどころかジョーカーは
長大なマグナムの1発で逆にバットマンを撃墜してしまう。
どっから出したんだよあの銃は。
ウイグル獄長か。

新シリーズのジョーカーは,自身が殺されることで「命に価値などないこと」
「バットマンが自身に課した不殺のルールが崩れ去ること」
を示さなければならないわけだから,自分がやられないと困ってしまうわけだ。
そしてバットマンは,それを避けるために
わざわざバットポッドを転倒させて気絶してしまう。
最初このシーンを見たときはギャグかと思ったんだけど,
よくよく考えたら意味のあるシーンだった。
ダークナイトは,こういうふうに一見しただけじゃ
意味がよく分からないシーンが多すぎて困る。
逆にいえば,ものすごい密度ということなんだけど。

新シリーズのジョーカーに自信など全くない。
凶悪な犯罪を犯すのに,わざわざこれはゲームだから,ジョークだからと
言い訳をしなければならないほどに彼は弱い。
失敗し,神様に見放されることに対する恐怖が彼を支配しているように見える。



旧シリーズを見て,ますます新シリーズのジョーカーが
熱心なプロテスタントに見えて仕方がなくなってしまった。
社会に適応できない程度に純粋な,原初のプロテスタント。
彼らの心は恐怖に支配されている。



なんだよ免罪符って!
誰が救われるかは教会が決めることか!?
神様がお決めになるもんだろう常識的に考えて…。

誰が救われて,誰が救われないか,それは予め神様によって決められている。
けど,神様の頭の中を覗くわけにもいかないから,
人間にはそれが誰か…自分が救われるかどうかは分からない。
ギャー。

いやしかし,少なくとも,神様との約束を守る人間は神様のお気に召すのではないか?
それくらいの予想をしたって,罰は当たらないのではないか?

よしじゃあ約束はきっちり守って思いっきり働くぞー おー^^
神様私はこんなに良い子でーす!

アメリカが異常なまでに正義,大義名分にこだわるのは,
歴史的には原住民を虐殺して建国したという事実があり,
宗教的にはプロテスタントの呪縛があるから…
かどうかは,わしの知ったこっちゃないけど。

新ジョーカーはやたらと爆発物を使う。
その理由について本人はこう答える。
「俺が好きなのは,火薬とガソリン。どれも安いものばかりさ」
清貧を旨とし,合理性を重んじるアメリカ型プ…もういいや。



「善=神の(不)存在」の証明のために命をかけるジョーカーの心情は,
信仰を持たないわしにはいまいちピンと来ない。
そのせいで彼の怖さも伝わってこないんだと思う。
「そんな腹の足しにならないことにムキになってどうするの?
 他にすることないの?」と思ってしまう。
けど,信仰を持つ人々にとっては,彼の攻撃は
自身の存在を根底から揺るがすような恐るべきものなんだろう,たぶん。
正直,アメリカ以外の国,特に日本において
観客が「彼を恐怖できるだけの素養」があるかどうか,ちょっと疑問。



さっきからなんでジョーカーのことばかり言ってるのって思われるかもしれないけど,
背景に信仰の存在があるのはブルース・ウェインもハーヴェイ・デントも一緒だから。
ただ,ジョーカーが一番分かりやすくそれを表現していただけで。





しかし,ダークナイトは勝者のいない物語だね。
バットマンは,その暴力と恐怖だけではゴッサム・シティを統治しきれず,
ハーヴェイ・デントが担うべき社会正義(適正手続の保証)は現実の前に押し潰され,
ジョーカーのように信仰に全てを捧げる生き方が復活するわけでもなく,
一般人は自ら責任を被るだけの覚悟はなく,バットマンへの依存から脱却できない。
(バットマンの役割が厄介事の始末人からスケープゴートに変わっただけ。
 ダークナイトである皇帝と民衆が融和したロマサガ2のエンディングとは正反対)

あらゆる価値観が崩壊し,どーすんべこれと途方にくれている様子が
特に現実らしく写ったのもヒットした原因の一つかな。

まあ,ダークナイトの世界観だと
バットマンとジョーカーの戦いは永遠に続くみたいだから
初戦は痛み分けってくらいなのかね。



あ。
唯一,あらゆる人間の価値観がひとつになるであろうものがあったわ。
ダークナイトのヒロインについての感そ…おっと誰か来たようだ。

テーマ : 最近見た映画 - ジャンル : 映画

12:21  |  映画  |  トラックバック(0)  |  コメント(0)

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