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2014.10.27 (Mon)

モロク異聞

時空の狭間での調査を終え,
ルーンミッドガルドの大地に帰還してから
すでに3ヶ月が経とうとしていた。
私は今砂漠の都市モロクにいる。
旧友のロダプリオンの誘いを受けて,
ピラミッドの発掘調査に参加するためだ。

だが,霜の巨人の国<ヨトュンヘイム>と
名付けられるにふさわしい寒冷峻厳なマヌクの山脈と,
御伽噺から抜け出てきたような常春の国<スプレンディッド>を
往来し,さらには過去の世界への旅などという
信じがたい体験を繰り返して弱りきった私の体には,
暑く乾いたモロクの気候はいささか過酷だった。

私はこの3ヶ月の間まともに体を動かすこともできず,
調査隊に本格的に合流したのは昨日からだ。
まさかあのただただ陰鬱な故郷アマツの長雨ですら
愛おしく思える日がやってくるとは思いもよらなかった。



それにしてもなぜこの時期に遺跡の調査を行うのだろう。
それも過去数百年の長きにわたり,飽きるほど
盗掘という名の調査が繰り返されてきたピラミッドに対して。

漏れ聞いた話では,(私たちの探索行が実を結んだのか)
近々魔王モロクに対する総攻撃が実施されることになり,
その余波がピラミッドに及ぶのを恐れて,ということのようだが,
この調査プロジェクトが「過去の遺跡を保全する前に
避難生活を余儀なくされている現在のモロクの住民への
配慮がなされるべきではないか」という至極まっとうな
世論へどのように対応したのか,興味は尽きない。

近ごろよく目にするようになった「紅白の傘のロゴが入った」
多数の救援物資があるいはその答えなのかもしれない。



古モロク第5王朝時代のファラオであるオシリスは,
未だに不明な部分が多い歴代のファラオの中でも特に不思議な存在だ。
遠くコモド,一説によればアルナベルツ方面へも支配圏を広げていたとされながらも,
反面,軍事的な行動をとったという記録がまったく出てこないのだ。
当時の王朝の規模からすれば,世界最高峰の
軍事力があっただろうと推測されるにもかかわらず。
そのためかオシリスの名は徳治の王として人々の記憶に刻まれ,
今でもモロクの地では同名の古神と同一視されて信仰の対象になっている。

一方で,ルーンミッドガルド人の見方はもう少し冷ややかだ。
オシリス王が軍事力を行使しなかったのは,そうする必要がない…
別の手段を有していたからだというものだ。
彼は史上稀に見る強力な魔術師だったのではないか,
というのが外部の識者の中では有力な説となっている。
ピラミッドに巣食う怨霊として今もなおこの地に君臨し続けるほどの…。

結局,古モロク王朝は後に魔王モロクによって滅ぼされてしまうが,
もしオシリス王の率いる最盛期の王国が
ルーンミッドガルドと事を構えていたらどうなっていたか。
カロモプのような戦史の研究家ならずとも,
そのような歴史のイフに心躍らされる者は少なくないだろう。
私たちは太陽神アモンを冠に戴く砂漠の民になっていたのだろうか。



オシリス王の墳墓といわれているピラミッドからは,現在に至るまで
人々が期待していたような豪奢な財宝の類はほとんど発見されていない。
失望を紛らわせるためか,この地に古くから根付く暗殺者の一団が
はるか昔に財宝を持ち去ったのだと噂する者も後を絶たない。

確かに,その集団 -異世界の調査でも先陣を切って活躍したアサシンギルド- 
が時の権力者の要請に応じてピラミッドの調査に協力してきたことは,
その下部組織がピラミッドの一部を私占していることからも明らかだが,
一説にはモロク王朝の近衛兵団を祖とするといわれている彼らが
そのような不敬を働くとは考えにくい。
むしろ,協力という形を取りながら,墳墓を荒らす者が
近づけぬよう守護していたというべきだろう。
(ギルドの幹部であるキドやリーンに確認したかったが,
 面と向かって訊く勇気は私にはなかった。)

とはいえ,唯一の例外があった。
今から十数年前,ルーンミッドガルド王国のトリスタン3世は,
国威発揚のため,国内の戦力増強のため,
大規模なピラミッドの調査隊を編成した。
腕に覚えがあれば資格は問わないという,きわめて異例の条件で。
国内外から数多くのならず者たちが流入し,
モロクの街は背徳の混沌のるつぼとなりながらも
王朝時代の活気を取り戻したという。

使命に燃える騎士,彼ら相手の商売に励む商人,
私たちのように学術調査のためやってきた魔術師,
そして不浄の異教徒の殲滅を図る聖職者たち。
その中には,ギルドの掟に反して祖王に弓を引いた
若いアサシンたちも混じっていたようだ。



ピラミッドには数多くの兵士や侍従が殉葬されていたが,
彼らは王の遺した強大な魔力を受けて不死の番兵となっており,
王の眠りを妨げる者に容赦なく襲いかかった。
彼の地で倒れた者はオシリスの新たなしもべとなった。
皮肉にも王の死後数百年を経て,
オシリスの軍勢はかつてない精強な存在となっていた。

そのあまりに悲惨な「調査結果」を疑問視する声が
日に日に大きくなっていったため,トリスタン3世は
調査終了の布告を出すことを検討していたという。
だが,不死の怪物の背後に潜んでいるものが
古代のファラオの呪いなどではなく,
魔力の篭った小さな符印にすぎないという事実を
ゲフェンの魔術師たちが看破すると,状況は一変した。

忌まわしい怪物たちは「動く財宝」として持て囃されるようになった。
怪物たちを動かす符印は,生きた人間でも使うことができたからだ…
そしてそれはオシリス王の遺産と呼ぶに十分なほど強大な力を秘めていた。
ここに至って,人々の熱狂は政府の統制を
まったく受け付けないほど大きなものになっていった。



我々が今回調査するのは,その時に
さんざん踏み荒らされた残骸だ…のはずだった。
だが,私の手元に送られてきた亡骸は,
オシリス王の侍従と呼ぶにはあまりにも新しすぎた。
それがかつての盗掘者…調査隊の成れの果てであることは明白だった。
私は,これは騎士団が管轄する「事件」ではないかと
ロダプリオンに詰め寄ったが,彼女の答えはあっさりしたものだった。
「だってそういえば予算がつくから」



錆の浮いた安物の短剣,
触れただけで崩れ落ちそうなフェイヨン産の編笠,
そして十数年前にジュノーで流行していた歌劇の主人公を模した仮面。
彼女とともに「出土」した「副葬品」は,彼女が
古来からの掟を守るアサシンギルドの精鋭からはほど遠い
末端の構成員であることを示していた。
そこまでは,長くこの世界を歩んできたものなら労せずして分かることだ。

私は彼女が発見された場所へ向かった。
ピラミッドの地上2階,侵入者を惑わす複雑な迷路を抜けた先に
大きな堀があり,そこには淡く青白い輝きを持った水が湛えられている。
彼女はそのほとりに倒れていたとという。
私はその場にグレイトネイチャを置き,召喚の儀式を始めた。



知恵の王の指輪―。
ルーンミッドガルド,シュバルツバルト,アルナベルツ3カ国の
技術の粋を集めて作られたこの指輪は,その由来となっている
72柱もの魔神をしもべとしていたという伝説の王のごとく,
あらゆる言語を解し,どんな者とも心を通い合わせることを可能とした。
もとはヨトュンヘイムにおいて現地の住人と会話するために
作られたものだったが,この発明は思わぬ副作用をもたらした。
かつて我々の触れ得ざる存在であった精霊。
その存在を認識し,力を借りることすらできるようになったのだ。

精霊についての調査もまだ始まったばかりだが,少なくとも
彼らは様々な姿をとってこの世界に具現化することが分かっている。
トール火山の火の精霊のように荒れ狂い人を害するものばかりではなく,
中には穏やかで人間との対話に耐えうるものもいた。

地の精霊テラとは,その頑迷さにいささか気後れさせられることもあったが,
大抵において良好な「人間関係」を築くことができていた。
なにより彼らは,自分の宿った土地の出来事であれば
どれほど昔のことであっても忘れずにいた。
私がプロジェクトに抜擢されたのは,そういう理由からだった。



その気難しさを見越してもすんなり終わると
思っていた彼との対話は,想像以上に難航した。
彼には自分の頭上を動きまわる人間の区別などつかなかったし,
自身が無限の大地から切り出されて,このような
狭苦しい建物に閉じ込められたことに憤慨していた。

私は,彼らが生まれてからずっと同じ場所にいるものだと思っていたが,
実際には気ままな旅を楽しんでいると聞いて驚いた。
今から8000万年前,彼はソグラト湾の海底にいたらしい。
この発見は地質学に多大な影響を与えるかもしれないが,
彼女の素性を知る上ではあまり有益な情報とはいえなかった。

言葉が通じることと心が通じることは同義ではない。
人間同士のやりとりで痛いほど思い知っていたはずのこの事実を,
なぜ遠くかけ離れた精霊との会話の中では忘れてしまっていたのだろう?
ドランスの屈託のない笑顔が,科学技術の万能という夢を
私の頭の中に摺りこんでしまったのだろうか。

結局,テラとの不毛な会話の中で得られた事実は,
ここに倒れていた亡骸が(おそらくは若い)
人間の少女だったということだけだった。
それはつまり,何も分からなかったのと同じだ。



このまま科学技術が発展していけば,いずれこの世界から謎はなくなる。
アカデミーで機械工学を専攻している私の同僚はそう豪語していた。
たしかに近年の科学技術の進歩はめざましく,遠くない将来
アカデミーはシュバイチェル「科学」アカデミーと名を変えることになるだろう。
となれば,精霊や魔法といった胡乱げなものに傾倒している私も,
やがて失職の憂き目に会う運命にあるのだろうか。
彼女が何を思って危険な探索に挑んだのか,
科学技術は解き明かしてくれるのだろうか。

オシリス王の遺産はわずかに冒険者を慰撫する程度のものだったのか。
魔王モロクは,人間たちの執拗な追撃から逃れるためとはいえ,
なぜ当時世界屈指の軍事力を誇っていたモロク方面へ逃げていったのか。
それは本当に逃走だったのか?
レッケンベルはここで何を探しているのか。

隣接するコモド,フェイヨンの植生を見れば,モロクの地も
かつては肥沃な森林が広がっていたことは間違いない。
それらを失わせる原因となったものとは何だったのか。

魔族が怒りによって変異した天使であるというのなら,
彼らは何に対して怒りの矛先を向けているのだろうか。

オシリス王の玄室に湛えられていた青白く輝く水。
セスルムニル神殿の最奥で見かけたそれとの類似は何を意味するのか。

神々の黄昏,人間の傲慢,怒れる天使,破壊された大地,
オシリス王の魔力の源,魔王モロクの目的,レッケンベルの野望。
これらが一本の線で繋がる日もやってくるのだろうか。



同僚の言葉が真実だとしても,その領域に達するまでは
テラですら飽きるほどの時間がかかるにちがいない。
それまでは,歩を進めるほどに謎は増え続け,
私の人生をより楽しいものにしてくれるだろう。
まずはテラの喜びそうな言葉から探すことにしよう。
そう考えながら,この日はピラミッドを後にした。




シュバルツバルト共和国立
シュバイチェル魔法アカデミー
賢人学部精霊魔法研究室教授
文月 アヤネ

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22:52  |  ブレイザブリク  |  トラックバック(0)  |  コメント(6)

Comment

ものすっごいわくわくしました(*´ω`*)
もしや長月さんや神無月さんの後日談、もしくは再登場が……!?
Leaf |  2014.10.29(水) 00:59 | URL |  【編集】

Leafさんこんばんは。
それはガンホーの気分次第なの…。
えか |  2014.10.29(水) 20:20 | URL |  【編集】

お久しぶりの文月教授、いえ、魔術師のご登場ですね。

なんつう!なんつう文豪っすかw
二日連続でお昼ご飯の供となりました。

本当にえかさんの文章は風景まで目に浮かんできて最高っすねー。

その読解力や想像力はどうやったら身につくのでしょうか。

本を読めって!?いやいや、拙者、絵が今風でセリフとナレーションが極端に少ない漫画を好むようで・・。

ピラミッドに行ってた頃を思い出してめっちゃ楽しかったです!!!!!!!
イスタンコ |  2014.10.30(木) 23:22 | URL |  【編集】

イスタンコさんこんばんは。
風景が目に浮かぶのは,わしとイスタンコさんが同じ思い出を持っているからかもしれませんね。
ピラ2に人がごった返していた時代,ソルスケCに恵まれることなく消えていったアサシン達。
彼らが現代に蘇ったらどう思うだろう?
というのが10月にアサシンを選んだ動機だったんですよ。
えか |  2014.10.31(金) 19:38 | URL |  【編集】

こんにちは〜

楽しく読ませていただきました、傘オペラでクスってなったのはあたしだけじゃないはずー・・・w

うっかり神無月ちゃんが残していってくれた「まず行って転がってから考える」を胸の中で反芻しながら、ひとまず今回もお疲れさまでした♪
なおぴ |  2014.11.04(火) 18:01 | URL |  【編集】

なおぴさんこんばんは。
分かってくれましたか。
かつてのROには多くの人であふれていた,傘オペラピクもたくさんいた。
わしがいいたいのはそれだけだったんです。
伝わってよかった。
えか |  2014.11.04(火) 19:44 | URL |  【編集】

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